毒親と課題の分離

最近、毒親に関する本がすごく多く出版されている気がする。「毒親」というのは、スーザン・フォワードの「毒になる親」という本に書いてあるもので、子供を過度にコントロールしたり依存する親のことで、こういう親に育てられた子供は大人になった後も人生がうまくいかないことが多い。 

毒になる親 一生苦しむ子供 (講談社+α文庫)

毒になる親 一生苦しむ子供 (講談社+α文庫)

 

最近でいうと、母娘関係に注目した本や、モラハラ・DVに関する本など、関連トピックに関わる本はすごく多いと思う。

完璧な親などというものはないので、誰しも大なり小なり感じるところが多いと思う。2000年頃はこういう本が多数出版されるということはなかった気がするが、何か変化があったのだろうか。

毒親に育てられた人が大人になった後に持つ弊害は、何種類かあると思う。例えば…

  1. 他人の間違いが許せず、ひたすらなじったり、脅したりする。親になると子供にもそうしてしまう。
  2. 親からダメだと言われ続けたが故に、実際に自分がダメだと考え、何もできなくなってしまう。
  3. 親が完璧というふうに思うことをやめられず、それ以外の他人を不完全な人間と思うことをやめられない。
  4. 良いことと悪いことが反転する。「自分に暴力を振るってくるのは私のためを思ってるからだ」など。

このほかにもいくらでも挙げられそうだ。

小さい子供は親以外に自分を守ってくれる人がいないので、必死に親を全肯定する。そして、親の考えに染まろうとし、親に認められたいと望む。大きくなれば、親にも欠点があり、他の人と比べると特に優れたものではないことを悟り、自分自身で自分を認め生きていこうとする。

でも、小さい頃に親に常に不安にさらされたり、依存されると、そういった大人になる過程を経ることができず、親を相対化することや自分の独自の価値観を作ることもできず、親から受けた評価を引きずることになる。

こういった状態から抜け出すには、課題の分離アドラー)が必要になる。毒親は多くの場合、親自身が何かの問題を抱えていて、それを解決せぬまま親になっている。それが子供へのコントロールや依存に結びついている。親が「お前のために言ってるんだよ」という場合、多くは子供の問題を考えているのではなく、親自身の問題からそう言っているのである。子供は親の問題を親の問題として認識することができず、自分の課題を親の問題から分離して自分の問題を生きることができない。だから親からの自分に対する評価を気にして苦しんだり、親以外の人間(自分自身を含む)を不完全で許せない人間と見てしまう。親の課題と自分の課題を分離し、自分の課題を生きることが必要である。 

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

 

 しかし、親の問題を自分の問題と切り離すことは、とても苦痛を伴うことが多い。映画「ギルバート・グレイプ」では、主人公(ジョニー・デップ)は、夫の自殺から7年間も家から出たことがない肥満で過食症の母、自閉症の弟、そして2人の姉妹たちを支えて生きており、自分の人生を生きることができない。そこで、街にやってきた女性を好きになったが、彼女と付き合うには自分の家族を置いて出て行くしかない、という「親の問題」「自分の問題」の分離を迫られ苦しむ姿が描かれる。

ギルバート・グレイプ [DVD]

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 AV監督の二村ヒトシによると、多くの女性は親との間の問題から、「心の穴」を持ってしまうという。ここでいう「心の穴」も毒親からの影響で、自分の自尊心を保つことができないことを言っているのだと思う。つまり、自分を愛することができない。多くの女性は、この「心の穴」を埋めるために男性を好きになることはあっても、それは相手を一人の人間として認めた上での「愛」ではなく、自分の欠落を埋めるための「恋」なのだという。そして、自分を「愛」してくれる男性に惹かれるということができない。

 これとは別に男性も職場や家庭などで、自分の部下や妻・子供の間違いを責め続けたり、なじったりすることをやめられず、しかもそれを相手のためだということをやめられない人が多くいると思う。これも、毒親との間で発生した問題をちゃんと整理して自分の生き方を生きることができていないからなのではないかと思う。自分の経験だが、執拗に部下を責め続ける上司というのは、どこか埋められない空白のようなものを抱えているように見える。モラハラ加害者のすべてが家族に原因があったとは言えないだろうが、自己愛的だったり、勝ち負けの二元論で勝ちにこだわったり、支配したがったりなど、毒親の元で育って、それを繰り返している人は少なくないのではないかと思う。

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

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 昨今、アドラー心理学が多くの人を惹きつけているのには、毒親モラハラ、DV、ダメ男への依存といったことがすべて課題の分離ができないことから生じているからに思える。自分が生き延びていくための知恵としても、他人を傷つけないためにも、課題の分離が多くの人に深く認識される必要があると感じる。