物語の構造

私は昔から、物語の構造に興味があって、関連文献を読んで、映画を見たり小説を読んだりしてきた。なぜ物語の構造に興味があるかというと、苦しんでいる時や、この人生に何の意味があるんだと思う時に、映画や小説が持つ物語の構造に自分の人生を当てはめることで、自分の今の人生が生きるに値するものだと思えるのではないか、と思ったからだった。もし同じような思いをしている人がいたら、ここで紹介する本が役に立つかもしれない。

 

最初に読んだ本は、宮台真司さんの「絶望・断念・福音・映画」である。この本はかなり独特で他に似た本を読んだことがない。この本が前提とするのは「社会」と「世界」の区別である。ここで「社会」というのは人間が言葉にしてコミュニケーションできるもの全体を表し、「世界」はそれ以外も含んだあらゆるものを指す。この本で扱われる映画たちは、主人公が「社会」の中で生きることに絶望し、「社会」からはじき出されるのだが、そのあと、「世界」から差し込む光によって救われ、自分がはじき出された「社会」を愛おしく感じ、そこで生きることを決意する、という図式で捉えられる。この「『世界』から差し込む光」がなんとも捉えがたい。なんとも宗教めいている。

しかし、この本はずっと私に影響を与え続けている。この本がすべての映画を説明する力を持つかというと、そういうことはないとは思う。「社会」における位置取りにあくせくして他人を傷つける人々。そんな人々が構成する「社会」にしがみつく辛さとそのくだらなさを気づかせ、一歩「社会」から外に出てより大事なことに気づくこと。この本はその重要性を気付かせてくれる。「社会」は変わる。「社会」の価値観なんてすぐ変わる。だから、そこでの価値観を脱構築して、より大事なものに気づこうと呼びかける本である。

 

次に読んだのはジョゼフ・キャンベルの「千の顔をもつ英雄」である。ジョゼフ・キャンベルは神話学者であり、世界中の神話を分析したところ、それらに同じ物語の構造があると結論付けた人である。これを基にして、スター・ウォーズは作られた。そして、現在のハリウッドの脚本家志望者のための本は全てこの本を土台にしている。

簡単にどういう構造かというと、最初に迷う主人公がいる。そして、その人の前に冒険への扉が開かれる。主人公はそこへ入ることを恐れる。しかし、導きの師が現れ、彼に導かれ怯えつつもその扉をくぐる。そこで主人公は様々な試練を経て少しずつ成長していき、自分の最終的な課題に目覚める。そこで最終的な敵に出会い勝負をするが負けてしまい、死の淵に追いやられる。しかし、そこで復活し、以前と全く異なる姿に成長し、敵を倒す。そして、もともといた世界に戻る。その世界は以前と同じようだが、主人公には全く違った風景として映る・・・。というものである。

ちなみに、「千の顔をもつ英雄」は非常に難解なのでこれを読むのはお勧めしない。日本語訳がよくないという人もいるが、英語で読んでも難しかった。

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 
千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

読むのであれば、ジョゼフ・キャンベルをベースとした以下の2冊をお勧めする。日本語訳も出ているらしいけど、自分はヒーヒー言いながら会社の昼休みに英語で少しずつ読んだ。英語でもそこまで難しくないと思う。

ロバート・マッキーのこの本はハリウッドの脚本家を目指す人はおそらくほとんど読んでいるんじゃないかと思う。クリストファー・ボグラーの方は「千の顔をもつ英雄」を忠実にわかりやすくした本であるだけでなく、キャラクターのアーキタイプ(原型)を解説している。例えば、主人公を導く「師」や、悪役の「敵」や、「ヒロイン」など。これを利用すると、「初めは「師」だったのに、同時に「敵」でもあるような人」といった変化系のキャラクターを作ることができる(例えば「コラテラル」のトム・クルーズ!)。

Story: Style, Structure, Substance, and the Principles of Screenwriting

Story: Style, Structure, Substance, and the Principles of Screenwriting

 
The Writer's Journey: Mythic Structure for Writers

The Writer's Journey: Mythic Structure for Writers

 

 

ジョゼフ・キャンベルが書いたようなことは、実はいろんな人が経験的に知っていたというのもまた事実である。「仁義なき戦い」の脚本家、笠原和夫が書いた「シナリオ骨法」がそれで、彼の本「映画はやくざなり」に収録されている。

映画はやくざなり

映画はやくざなり

 

 

これらのストーリーの構造をわかりやすく町山智浩さんが解説した音声ファイル、これはお勧めである。3時間分を合計600円で聴ける。基本、笠原和夫のシナリオ骨法に沿って話すが、ジョゼフ・キャンベルにも触れている。読むのが面倒くさい人はこれを聴くだけでも大丈夫だと思います。

tomomachi.stores.jp

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