川本三郎「フィールド・オブ・イノセンス」その1

私の好きな著名人で、この本に強く影響を受けたと語る人が多いので買ってみた。しかし、今のところ絶版のようである。なお、解説は村上春樹。 

フィールド・オブ・イノセンス―アメリカ文学の風景 (河出文庫)
 

 300ページ中、まだ100ページしか読んでいないがこれはめちゃくちゃ面白い。アメリカの精神性が「無垢」を求める心にあるのと、西の大草原にあるとする。東海岸から西へ出て、そこに広がる大草原はヨーロッパ的な森とは全く違うもので、アメリカ人の精神性を特徴付けていて、余分な所有物を持って定住するのではなく、身軽にあちこちへと移住する「ホーボー」の生き方に象徴されているという。

個人的に面白いのはジョン・アーヴィングに関する2つの特徴の記述である。

まず一つは、それまでのアメリカ文学が女性を描くことが少なかったのに対し、彼の文学で女性がたくさん登場することにフェミニストが賛辞を送るが、それは違う、というものである。ジョン・アーヴィングは、「女性と共に過ごさざるを得ない男たち」を描いているのであり、登場人物たちの女性へのまなざしは消極的なものなのであるという。そして、そこに男の不器用さが描かれているのだと。だからそこでは男の弱さが描かれているのだと。

二つ目は、ジョン・アーヴィングの過剰な「誇張」である。ジョン・アーヴィングの物語があんなにも大部になるのは、大げさで長い登場人物たちの誇張した描写が多いからである。だが、もし物語を現実の通りに描こうとしても、例えば、悲劇を描いたとしても、それは現実のそれには絶対かなわないのである。だから、あり得ないような大げさな誇張を物語に取り入れることで世界を再構成し、見方を逆転させる。そうした大げさの誇張の中で、アーヴィングの物語には色々な悲劇が描かれるが、その誇張された表現の世界の中では悲劇も喜劇のようになり、楽天的な世界観を提示することができるのだという。

どちらの視点も大変面白いし、物語を作る上で、今でも大変役に立つ示唆だと感じる。

 

続きを読むのが楽しみである。