オルハン・パムク「雪」

トルコのノーベル賞作家、オルハン・パムク著「雪」。

トルコへは以前旅行したことがある。トルコといえば、ご飯が美味しくてボスポラス海峡が綺麗で都会の要素もあるイスタンブール、きのこの形をした岩や洞窟教会や地下都市のあるカッパドキア、絶景の温泉や世界遺産のあるパムッカレ・エフェソス・トロイなど、いろんな見所がある。

ところが、最近はテロの多発や、エルドアン大統領による強権政治など、トルコの状況は不安定になっている。

私がトルコに行ったとき、モスクで見たムスリムたちの信仰も印象に残ったが、同時にアンカラナショナリズムの強さをなんとなく感じた(アタテュルクの肖像画など)。

トルコはイスラム教が主な宗教だが、国としては政教分離の制度を取り、宗教に対しては抑制的ある。その反面、強いナショナリズムを持っている印象を受ける。現在、トルコにおいては、イスラム教への信仰と、政教分離を内に持つナショナリズムとの微妙なバランスが崩れ始めていると感じる。

オルハン・パムクの「雪」は、トルコの状況が不安定になる前に書かれた本であるが、その主題はまさしく信仰と無神論の対立である。イスラム信仰から発する自殺やテロ事件、そして無神論の主人公。彼らが互いに交わることで、イスラム教徒は不意に自身の信仰にかすかな迷いを生じ、無神論者も神の存在を考えてしまう。

私は積極的無神論者だが、社会を取り巻く宗教と、無神論の人間の考えが持つ微妙な揺らぎがトルコに限らない世界全体にどう影響しているのかを考える必要性をこの作品から強く感じた。

雪〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫)

雪〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫)

 
雪〔新訳版〕 (下) (ハヤカワepi文庫)

雪〔新訳版〕 (下) (ハヤカワepi文庫)