依存・怠惰・集中とNudge
Nintendo DSを長時間やってると、画面上に「少しお休みになった方がいいのではないですか」といったようなメッセージが出てくる。これが出てくると実際に「あぁ、休もう」と思えて大変助かる。こういう誘導を行動経済学ではナッジ(Nudge)と呼ぶらしい。ナッジとは、「ひじで小突く」という意味のようで、「強制でも、自由放任でもない第三の道」として興味を集めている。
以前、ネットいじめを防ぐために、14歳の女性がRethinkというアプリケーションを作って注目を集めたことがある。SNS投稿時にネガティブなワードが含まれていたら、「相手を傷つける可能性があります。本当に投稿しますか?」といったメッセージを表示することで、投稿を思い止まらせ、人を傷つけるコメントの投稿数を減らしたようである。
このように、相手に行動を思い止まらせるナッジもある一方、相手に行動を誘発するナッジもある。例えば、男性便所では小便器の外に撒き散らしてしまう人が多いのだが、アムステルダムのスキポール空港の小便器の中にハエの絵を入れたところ、皆がそこに目がけて小便をするようになって、清掃費用がかなり激減したらしい。
このように、行動を思い止まらせるナッジと誘発するナッジがあるが、良いナッジばかりではないと思う。特にインターネットは相手にウェブサイト滞在時間を長くするためのナッジがあちこちにちりばめられている。
インターネットでは、関連リンクを見せることでクリックを促し、ユーザをウェブサイトに止まらせるし、YouTubeも動画を一つ見終わると次の関連動画のクリックを迫ったり、勝手に次の動画に移ったりする。SNSのシェア・リツイート・いいねなども、他のユーザに次の注意の向け先を提供する仕掛けだ。
SNSやブログや動画を次から次へとみることに慣れてくると、次第に自分で長い文章を深く読み込んだり、深く物を考えたり、自分の考えに基づいた次の意思決定をすることができなくなってくる。例えば、長い本をじっくり読んで考えることができなくなってくる。依存や怠惰を招くナッジは人間の思考や習慣を悪い方向へ変えていく。
YouTubeの見過ぎやSNSの見過ぎがナッジによって誘発されるとしたら、逆にそれを止めるナッジができても良いのではないか。例えば、1日のYouTube閲覧合計時間が1時間増えるごとに「今日あなたはYouTubeを4時間見てますよ。そろそろ勉強したら?」というメッセージを表示するのである。こうすれば、ネット依存が防げて、集中力を高く保つ人間が増えるのでは?と思う。誰か開発してくれないかな。
【追記】もうすでにありました。以下のリンクをご参照。
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