三宅隆太「スクリプトドクターの脚本教室・初級篇」を読んだ

二村ヒトシさんによる千野帽子著「人はなぜ物語を求めるのか」の書評で取り上げられていたので読んでみた。

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とっても中身の濃い本でじっくり時間をかけて読んだ。 

スクリプトドクターの脚本教室・初級篇

スクリプトドクターの脚本教室・初級篇

 

この本では「窓辺系」と彼が呼ぶタイプのシナリオ作成者に向けて書かれている。ここでいう「窓辺系」とは、次のような物語を書くシナリオ作者のことである。何かしら自分の中に不和のようなものを感じている主人公が少しの間、日々の生活を中断する機会を得て、そこで特段大きな事件もないのに主人公が前向きになるような物語である。具体的な例をあげると、疲れて会社から帰る主人公が悶々とした様子を見せるなか、親の病気や妹の結婚などの知らせで実家に帰り、そこで昔の嫌な思い出などを思い出しつつも、窓辺で浸っているときに不意にやる気を取り戻して、会社へ前向き行くことを決心するようなもの。

このような物語の作者は人への共感力が高いが、物語上の事件や登場人物の性格などが連関しておらずバラバラなため、各登場人物がなぜそのような行動をするのか、ということがわからなくなってしまっている。このようなことを防ぐために、いかに各事件や登場人物の行動を線を描いて展開させるかを解説してくれる。

著者はカウンセラーの資格も持つ人で、物語を書くことは自分にたいするヒーリングにもなるという。物語の主人公が自分を守る小さな殻を打ち破っていかないといけないように、物語を書くにはその人自身が持つ小さな殻を破っていかないといけない。本書はそのような小さな殻を捨てることができない人にとって、物語を書くためだけでなく、自分をよりよくするためにも大変示唆的な本である。