村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」を読んだ。

以前、村田沙耶香さんの「コンビニ人間」を読んでいろいろ考えさせられたのと、物語の世界観やキャラクター設定に感銘を受けたので、同著者の「しろいろの街の、その骨の体温の」を読んだ。

コンビニ人間」を読んだ時は作品と自分の距離を保つことができたが、「しろいろの」は、自分の感覚の中にどんどん入ってきて、最後に私の感覚能力を拡張して過ぎ去っていった。

主人公は女性で、最初の3分の1が小学校の初潮が始まるころ、そのあとが中学2年生のころである。開発途中のニュータウンに住んでいる少女が、自分の体にコンプレックスを覚えたり、学校内の人間関係(スクールカースト?)に怯えて自分を押さえ込んだり(と同時に自身もそのカーストの中で加害者にもなる)、書道の教室で一緒に男子を「おもちゃ」にしようとしたりする…と言ったら「なんじゃその話」といわれるだろうか。

以前、宮台真司さんが「コンビニ人間」を「社会学者が書いたと思ってしまうような内容」と言っていたが、「しろいろの」も「ニュータウン」「学校」「女性のセクシュアリティ」といった内容が有機的に結びついている。amazonのレビューで「酒鬼薔薇事件を乗り越えようとしている」との評や「実存を描く物語」という評があり、なるほどと思った。この小説で主人公は、自分を押しとどめ、世界に「外部はない」と思い、自分の中の性という魔物をいびつな形で発露する。それにもかかわらず、主人公は、最後の方で、思わぬきっかけで、ニュータウンを生きる人々の抱える悪循環を乗り越え、自己開示を果たす。

この話はニュータウンという場を借りていながら、そういう場所に住んでない人々にも通ずる話である。社会や家庭で自分を押しとどめる人は皆この小説からヒントを得られるのではないか。ついでに言うと、小説中で、このニュータウンは発展し、途中で発展をやめ、また発展をし始めるのだが、それと日本全体を重ねて考えても良いかもしれない。

女性のセクシュアリティの描写も印象深かった。村田沙耶香さんの他の小説でも女性のセクシュアリティを描く作品が多いと聞くので、他のものも読んでいこうと思う。